静電気イノベーションズ

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静電誘導と抵抗率

静電誘導は導体に関わる静電気現象である.導体の自由電荷(固体導体だと自由電子)が外部電界のよって表面(理想的な導体は導体内部の電界は0)で移動し,結果として表面で鉛直方向の電界のみが現れ,表面で同電位にする表面電荷分布となっている.つまり,静電誘導は自由電荷の移動現象によるので,要する時間は電荷緩和時間,つまり,誘電率および抵抗率(導電率)に依存する.静電誘導の抵抗率(導電率)との関係を理論的に示す.まずは,簡単に一次元モデルで考えてみる.

一次元モデル

図1aに示すような一次元モデルで考える.これの等価回路は図1bのようになる.電圧Vから距離d_1離れた位置に,厚さd_2の物体がある.この物体の誘電率\varepsilon,抵抗率は\rhoとする.物体の反対側は接地されている**.このとき,物体と空気の界面での表面電荷密度\sigma_fを求める.この界面での電荷保存式から
(1)       \begin{equation} \nabla \cdot \mathbf{J} + \frac{d\sigma_f}{d t} = 0 \Rightarrow \frac{E_2}{\rho} +\frac{d}{d t} \varepsilon E_2 -\frac{d}{d t} \varepsilon_0 E_1 = 0 \end{equation}

電圧V

(2)      V = E_1 d_1 + E_2 d_2 \Rightarrow E_1 = \frac{V-E_2 d_2}{d_1}

式(1), (2)より,また,t \gt 0\frac{dV}{dt}=0であるので,

(3)      \frac{d E_2}{dt} + \frac{E_2}{\tau} = 0

ただし,

(4)      \tau = \rho \left(\varepsilon + \varepsilon_0 \frac{d_2}{d_1}\right) = \rho \varepsilon_0 \left(\varepsilon_r + \frac{d_2}{d_1}\right)

ここで,\varepsilon_rは比誘電率である. t=0 \varepsilon_0 E_1 = \varepsilon E_2であるので,式(2)より, E_2|_{t=0} = \frac{\varepsilon_0 V}{\varepsilon d_1 + \varepsilon_0 d_2}t=\infty E_2|_{t=\infty} =0なので,

(5)     E_2 = \frac{\varepsilon_0 V}{\varepsilon d_1 + \varepsilon_0 d_2} e^{-t/\tau}

これを式(2)に代入して

(6)     E_1 = \frac{V}{d_1} - \frac{\varepsilon_0 d_2 V}{d_1 (\varepsilon d_1 + \varepsilon_0 d_2)} e^{-t/\tau}

したがって,求める表面電荷密度,すなわち,誘導電荷密度は

(7)     \sigma_f = \varepsilon E_2 - \varepsilon_0 E_1 = -\varepsilon_0 \frac{V}{d_1} (1  - e^{-t/\tau})

導体と同じ(99%)静電誘導電荷となるためには,5 \tauの時間がかかる.抵抗率1010 Ω mを越えると,この時間は,数秒以上かかることになる.図2に抵抗率\rhoと誘導電荷が現れるまでの時間5\tau \approx 10 \rho \varepsilon_0~(\frac{d_2}{d_1}\approx 0,~\varepsilon_r =2)の関係を示す.このことは,5 \tau以内の時間にこの物体を動かすことがあれば,導体と同様な静電誘導は起きないことを示している.つまり,そんなときは火花放電は起きないということだ.

**計算を簡単にするために接地とした.絶縁する場合は下側と接地の間に空気層を挿入するモデルにする.