サンプリング・検尺
タンク内の液体のサンプリングや検尺(液面計測)は事故事例が多い作業である.
チェック項目44 十分な静置時間を確保したのちに検尺・サンプリングが実施されるか
チェック項目45 絶縁導体はないか
[ハザード]
- サンプリング・検尺は可燃性雰囲気が形成されているとき,あるいは,このためにマンホールやドレインバルブを開けるなどして可燃性雰囲気が形成されると,静電気放電(火花放電・ブラシ放電)により着火のハザードがある.
- 可燃性雰囲気の形成を防止しているタンクでもマンホール等を開放すると,数秒で可燃性雰囲気となる.
- サンプリングしている作業者も帯電する,あるいは帯電している可能性がある.
- 充てん,混合などで液体が帯電しているときのサンプリング・検尺は着火ハザードとなる.大型・中型タンクではさらに着火リスクが高くなる.
- 液体とサンプリング容器との間,サンプリング容器とタンク構造物(マンホールリム,バルブなど),またはサンプリング容器と作業者との間でで着火性放電のハザードがある.
- 事故事例から着火頻度の高い作業である.マンホールからよりもドレインバルブを開放してのサンプリングの方が事故が多い.
[確認事項・リスク低減策]
次の事項や対策を確認する.
- すべての導体(電荷消散性の物体および作業者も含む)の接地・ボンディング:サンプリング・検尺の設備,または,このために作業者が用いる容器は,帯電または静電誘導を受けるおそれがある.これらは接地・ボンデ†ングが必要である.接続には,導電性または電荷消散性材料を用いる.金属チェーンは使用してはならない.
- サンプリングに用いる容器は金属製で接地されているか確認する.
- 低・中導電率液体のサンプリング容器にも導電性のものを用い,これを接地しなければならないが,これの接地が確保できないときは,木製のディップ棒を用いた L以下のガラス容器*を用いるとよい.これは接地されていない高導電率液体**に対しても有効である.
- 液面フロートなど液面に浮いた導体は接地されているか確認する.構造的な設計ミスによって液面フロートが絶縁される事故がいくつかある.
- 作業者人体は靴と床により接地され,適切な漏洩抵抗(108 Ω以下)が確保されているか確認する.
- タンク屋根からマンホールを開放してのサンプリング・検尺は,ゲージウェル***がない設備ではできるだけ避ける.
- 窒素パージなどで可燃性雰囲気形成を防止されたタンクでは,マンホールを開放するサンプリング・検尺はしない.
- 液面からの検尺・サンプリングはブラシ放電(低・中導電率液体で発生する)または火花放電(高導電率液体で発生する)のハザードとなるので,十分な静置時間の後に実施する必要がある.ブラシ放電は,液面電位が25 kVを超えると着火性となるおそれがある.さらに,サンプリング容器が絶縁されて作業者が取り上げるときあるいはタンク構造物に接触して火花放電により着火している例が多い.
- さらに,詳細に調査したいのであれば,誘電率,導電率,流速と配管径から容器内の電荷密度を求めて,ポアソンの方程式から液面電位を時々刻々に数値計算できるので相談されたい.
- クリーニング,撹拌など帯電を促進させる作業中のサンプリング・検尺は避ける.
- 充てん,撹拌などで液体が帯電しているので,すぐにサンプリング・検尺をしてはならない.サンプリング・検尺の前に静置時間として100 s以上確保する必要がある.混合液体や二相液体などでは充てん後も電荷の発生(沈降帯電など)があるので,固体・水などの不溶成分が含まれる低導電率液体の場合は,30分以上確保する必要がある.
- サンプリング・検尺にゲージウェルの設備がある場合は静置時間をとらなくてもよい.このような設備はタンクに付随した固定設備であることが多い.
- バルブを開放して実施するサンプリングは噴出しないような構造になっているか確認する.着火原因は絶縁導体による火花放電であるので,すべての導体は接地・ボンディングする.サンプリング容器が絶縁される例としては,作業者(絶縁性手袋または絶縁性靴着用)が容器を持つ場合とバケツの絶縁性取っ手部を配管構造物に掛けて実施するときが多い.
雷,雷雨など,大気の電気的条件が乱れる可能性がある場合は,屋外でのサンプリング・検尺を実施しないこと.
* ガラス容器は,できれば電荷消散性コートのものを用いるとよい.また,木製は電荷消散性である.
** 高導電率液体なので,本来は接地されなければなたない.
*** シールド効果を活用した,タンク上部から下部まで延ばされた穴あきの接地金属配管である.サンプリング・検尺はこの配管内で行われる.