ガイド:静電気リスクアセスメント2023アップロードしました
静電気リスクアセスメントのガイドの2023年版をアップロードしました.まだまだ,ところどころに修正したいところがあるのですが,49週になりましたので,2023年版をアップロードしておきます,
https://www.researchgate.net/publication/320612230_Risk_assessment_of_electrostatic_ignitions
サンプリング・検尺
タンク内の液体のサンプリングや検尺(液面計測)は事故事例が多い作業である.
チェック項目44 十分な静置時間を確保したのちに検尺・サンプリングが実施されるか
チェック項目45 絶縁導体はないか
[ハザード]
- サンプリング・検尺は可燃性雰囲気が形成されているとき,あるいは,このためにマンホールやドレインバルブを開けるなどして可燃性雰囲気が形成されると,静電気放電(火花放電・ブラシ放電)により着火のハザードがある.
- 可燃性雰囲気の形成を防止しているタンクでもマンホール等を開放すると,数秒で可燃性雰囲気となる.
- サンプリングしている作業者も帯電する,あるいは帯電している可能性がある.
- 充てん,混合などで液体が帯電しているときのサンプリング・検尺は着火ハザードとなる.大型・中型タンクではさらに着火リスクが高くなる.
- 液体とサンプリング容器との間,サンプリング容器とタンク構造物(マンホールリム,バルブなど),またはサンプリング容器と作業者との間でで着火性放電のハザードがある.
- 事故事例から着火頻度の高い作業である.マンホールからよりもドレインバルブを開放してのサンプリングの方が事故が多い.
[確認事項・リスク低減策]
次の事項や対策を確認する.
- すべての導体(電荷消散性の物体および作業者も含む)の接地・ボンディング:サンプリング・検尺の設備,または,このために作業者が用いる容器は,帯電または静電誘導を受けるおそれがある.これらは接地・ボンデ†ングが必要である.接続には,導電性または電荷消散性材料を用いる.金属チェーンは使用してはならない.
- サンプリングに用いる容器は金属製で接地されているか確認する.
- 低・中導電率液体のサンプリング容器にも導電性のものを用い,これを接地しなければならないが,これの接地が確保できないときは,木製のディップ棒を用いた L以下のガラス容器*を用いるとよい.これは接地されていない高導電率液体**に対しても有効である.
- 液面フロートなど液面に浮いた導体は接地されているか確認する.構造的な設計ミスによって液面フロートが絶縁される事故がいくつかある.
- 作業者人体は靴と床により接地され,適切な漏洩抵抗(108 Ω以下)が確保されているか確認する.
- タンク屋根からマンホールを開放してのサンプリング・検尺は,ゲージウェル***がない設備ではできるだけ避ける.
- 窒素パージなどで可燃性雰囲気形成を防止されたタンクでは,マンホールを開放するサンプリング・検尺はしない.
- 液面からの検尺・サンプリングはブラシ放電(低・中導電率液体で発生する)または火花放電(高導電率液体で発生する)のハザードとなるので,十分な静置時間の後に実施する必要がある.ブラシ放電は,液面電位が25 kVを超えると着火性となるおそれがある.さらに,サンプリング容器が絶縁されて作業者が取り上げるときあるいはタンク構造物に接触して火花放電により着火している例が多い.
- さらに,詳細に調査したいのであれば,誘電率,導電率,流速と配管径から容器内の電荷密度を求めて,ポアソンの方程式から液面電位を時々刻々に数値計算できるので相談されたい.
- クリーニング,撹拌など帯電を促進させる作業中のサンプリング・検尺は避ける.
- 充てん,撹拌などで液体が帯電しているので,すぐにサンプリング・検尺をしてはならない.サンプリング・検尺の前に静置時間として100 s以上確保する必要がある.混合液体や二相液体などでは充てん後も電荷の発生(沈降帯電など)があるので,固体・水などの不溶成分が含まれる低導電率液体の場合は,30分以上確保する必要がある.
- サンプリング・検尺にゲージウェルの設備がある場合は静置時間をとらなくてもよい.このような設備はタンクに付随した固定設備であることが多い.
- バルブを開放して実施するサンプリングは噴出しないような構造になっているか確認する.着火原因は絶縁導体による火花放電であるので,すべての導体は接地・ボンディングする.サンプリング容器が絶縁される例としては,作業者(絶縁性手袋または絶縁性靴着用)が容器を持つ場合とバケツの絶縁性取っ手部を配管構造物に掛けて実施するときが多い.
雷,雷雨など,大気の電気的条件が乱れる可能性がある場合は,屋外でのサンプリング・検尺を実施しないこと.
* ガラス容器は,できれば電荷消散性コートのものを用いるとよい.また,木製は電荷消散性である.
** 高導電率液体なので,本来は接地されなければなたない.
*** シールド効果を活用した,タンク上部から下部まで延ばされた穴あきの接地金属配管である.サンプリング・検尺はこの配管内で行われる.
フィルタ,濾過器,水分分離器
[ハザード]
- フィルタ,濾過器および水分分離器での液体の流動は,通常の配管流動よりも液体を著しく帯電させる.
- たとえば,配管での帯電が10 𝜇C/m3程度でも,マイクロフィルタ(30 𝜇m以下)では,5000 𝜇C/m3を超える.
- 粗い目のメッシュなどのフィルタ等(150 𝜇m以上)では高帯電になりにくいが,部分的に詰まったりすると通常の配管流動よりも液体を著しく帯電させる(100 𝜇C/m3のオーダー).圧力監視によって部分的な閉塞をモニタリングするとよい.
- 下流のタンク・容器などで,可燃性雰囲気が形成されるとこの帯電により着火ハザードがある.
- 充てん容器直近でのフィルタ,濾過器,水分分離器の設置は,液体の電荷が十分に緩和されず,かつ,フィルタも帯電しているので,さらなる帯電ハザードとなる.
[確認事項・リスク低減策]
次のような対策がなされているか確認する.
- フィルタ等の導体部およびすべての導体は接地・ボンディングする.
- フィルタ容器および緩和チェンバーを用いるときは,これらの内部に可燃性雰囲気の形成を防止するため,これらを常に液体で充満させるようにする.
- タンク・容器内部に可燃性雰囲気が形成される可能性がある場合,液体の滞在時間を緩和時間(𝜏: 液体の誘電率 / 導電率)の3倍(3𝜏)以上確保するように,タンク・容器から緩和長(3 v𝜏)以上の位置にフィルタ等を設置する.
- 著しく低導電率な液体または導電率が不明な液体は以下のような滞在時間を確保して,電荷緩和させる.なお,これらの滞在時間は,3𝜏と比較して短い方でよい.
- 30 𝜇m以下のフィルタ: 100 s
- 30-150 𝜇mのフィルタ: 30 s
- ただし,30-150 𝜇mのフィルタで,流動に閉塞が起こりやすい場合: 100 s
- 粗い目のメッシュなどのフィルタ等(150 𝜇m以上)では高帯電を発生しないので,フィルタが部分的につまらない限り,上のような特別な滞在時間を設ける必要がない.
- やむを得ず滞在時間を確保できない場合は,添加剤などで導電率を高め滞在時間の短縮させるか,可燃性雰囲気の形成を防止する.
- 油と水など2つ以上の相が存在するとき,充てんが終了した後の相の分離(たとえば,沈降帯電),つまり,電荷の発生が,3倍の電荷緩和時間よりもはるかに長く続く可能性がある.このような場合,サンプリングなどの作業を行う前に30分以上の遅延が必要である.
- 高粘性液体の場合は,滞在時間の対策は適さないので,受け入れタンク内に可燃性雰囲気の形成を防止する.
- 浮き屋根または浮きカバー備えたタンク充てんにフィルタなどを用いる場合は,浮き屋根が浮くまでの速度制限1 m/s以下に合わせて滞在時間(フィルタ等の位置)を決定する.この場合,浮き屋根が浮いてしまえば,着火ハザードはなくなる.
- 容器直近のフィルタは,可燃性雰囲気では使用してはならない.
高粘性液体
高粘性液体は動粘度が30 cSt(センチストークス:mm2/s)以上の液体であり,一般に,30--100 cSt程度である.多くの燃料や溶剤などの低粘度の液体(約 1 cSt)よりも帯電しやすい傾向がある.
[ハザード]
- 高粘性液体は,その粘性のため荷電粒子の流れも阻害されて,低粘性液体に比較して電荷緩和が著しく長くなり,結果的に帯電しやすくなる.
- このため高粘性液体では,導電率が0.01 pS/m程度まで低くなる場合は,1時間以上も電荷を保持することもある.
- したがって,可燃性雰囲気が形成される場合は,10.7充てんに示した通常の液体の流速制限は適当ではない.
- フィルター,濾過器などでは,さらに帯電するので,滞在時間および電荷緩和長による対策も有効ではない.
- 幸いなことに,ほとんどの高粘性液体は高導電性液体(原油など)または,可燃性雰囲気を形成しにくい揮発性が低い液体(機械油など)である.そのため,着火ハザードとはなりにくい.
- しかしながら,スイッチローディングなどで,低導電率・高粘性液体の機械油などを,前荷が揮発性液体であったタンクローリーに充てんするときなどは着火ハザードとなる.
- 高粘性液体の信頼性の高い流速制限は見つかっていないので,このように低導電率,高粘性液体を取り扱う場合は可燃性雰囲気を形成しない対策(たとえば,不活性化)が必要になる.
[確認事項], [リスク低減策]
次の対策がなされているか確認する.
- 導電率および引火点をベースにして対策する.
- 上記のハザードに示したように著しく導電率が低くなり,可燃性雰囲気が形成されるおそれがある場合はこれを防止する対策(窒素パージなど)を実施する.
内袋(ライナー)の利用
容器に液体を充てんする際や一時的に容器にウエットケーキなどを入れて置くときなど種々の用途に内袋(ライナー)を用いることもある.
[ハザード]
袋を使用することによる付加的リスクが高いので,可能であれば使用しない方がよい.
容器に内袋(ライナー)を用いると以下のようなハザードがある.
- 絶縁性袋を用いると液体と袋が帯電する.
- 導電性および電荷消散性内袋が絶縁されると火花放電のハザードがある.
- 絶縁性袋や液体が帯電すると,接地導体との間でブラシ放電のハザードがある.
- 容器が導電性の場合は絶縁性袋と容器の間でブラシ放電のハザードがある.
- 袋を容器から取り出すときが,最も危険である.
- 高導電性液体を絶縁性袋で取り扱うと液体が絶縁され,火花放電のハザードとなる.
- 可燃性液体で濡れた袋の取扱は可燃性雰囲気形成のハザードとなる.
- 袋が導電性または電荷消散性のとき,絶縁されると火花放電による着火ハザードとなる.
[確認事項], [リスク低減策]
- IICの可燃性雰囲気では内袋を使用しないこと.
- 導電性および電荷消散性容器のほかすべての導体は接地・ボンディングする.
- 内袋が導電性または電荷消散性であり確実に接地されるときは用いてもよい.
- 導電性または電荷消散性内袋を充てん中および容器から取り出すときも確実にこれらの袋を接地する.
- 導電性または電荷消散性内袋を接地なしで,ペイントコートの導電性容器に使用する場合は,コートの表面抵抗を109 Ω以下にして,電荷発生の要因となるフィルターやポンプなどを安全な距離になる位置に配置すること(十分な緩和長を確保して,電荷緩和すること)によって,ライナーに流入する液体の流動電流を1 𝜇A以下にする.あるいは,容器の導電性部に導電性または電荷消散性内袋が常時に確実に接触されるようにする.
- 絶縁性内袋の場合
- 導電性容器,または,厚さ2 mm以下の絶縁性コートの導電性容器にのみ使用する.このとき,ライナー(袋)は容器に密着するように接触させる.
- 接地した金属棒やディップパイプを挿入するなどして液体を接地する.特に,高導電性液体では,接地しないと絶縁導体となり,火花放電のハザードとなる.
- 可燃性雰囲気で利用する内袋は絶縁破壊電圧を4 kV以下にして,沿面放電を防止できる.
- 可燃性雰囲気では内袋(たとえば,可燃性液体で濡れた袋など)を容器から取り出してはならない.
- 可燃性液体で濡れた導電性または電荷消散性袋を取り扱う場合,人体を靴および床で確実に接地して,導電性または電荷消散性手袋を使用する.
- 取り出した袋を一時的に置いておく場所は,可燃性雰囲気を形成しないように通風・換気され,かつ,作業場所と離れた場所に置く.
- さらに,導電性または電荷消散性袋の場合,取り出した袋が絶縁導体とならないように比較的に導電性な床上(たとえば,コンクリート床)に置き,廃棄するまでは電荷消散性の袋に入れて置く.
- 絶縁性袋表面での着火性ブラシ放電生起の可能性はA.3.13を参照.
絶縁性タンク・容器
絶縁性材料でできた,おもにプラスチック容器である.
[ハザード]
絶縁性容器は導電性・電荷消散性容器,絶縁性コートが施された導電性容器および導体で囲われた絶縁性容器(IBC)よりも危険であり,次のようなハザードがある.
- 等価な大きさの金属容器よりも電位が高くなる.
- 漏斗など導電性・電荷消散性物体は絶縁性容器によって絶縁される.
- 絶縁性容器表面は摩擦などにより帯電する.
- 液体はこの容器によって絶縁されて電荷緩和がない.
- ドラムポンプ,漏斗などの導体は,接地されないと絶縁導体となり,静電誘導により火花放電のハザードがある.
- フィルタの使用は帯電を促進させて帯電ハザードとなる.
- スプラッシュローディング・高速充てんは帯電ハザードとなる.
- 絶縁性容器内の液体電荷による電界は容器外側にも形成され,容器の外側でも,ブラシ放電のハザードがあり,絶縁導体があれば静電誘導のハザードによる火花放電ハザードもある.
- 接地導体(作業者も含む)が近づくことによる液面からのブラシ放電のハザードがある.液体が導電性の場合は,液体が絶縁導体となり,火花放電ハザードの可能性もある.
- 絶縁された作業者も静電誘導により火花放電のハザードがある.
- 高導電性液体では,液体が絶縁導体となり火花放電のハザードがある.
- 容器壁は摩擦や液体との接触で帯電して,ブラシ放電のハザードがある.
- タンク・容器洗浄において厚さ2 mmを越える容器壁では,内部でブラシ放電ハザードがある.10.14.6タンク洗浄を参照.
以上の点から,可燃性雰囲気が形成される場合は絶縁性容器を使用しないこと.
[確認事項], [リスク低減策]
液体の純度の関連などからやむを得ず使用する場合は,次のような静電気対策が確実になされているか確認する.
- 充てん・排出中はすべての導体(電荷消散性の物体および作業者も含む)の接地・ボンディングをする.特に,金属製漏斗やディップパイプなどの接地を忘れないこと.
- 充てん中に液体を接地できるように,接地ディップパイプ,接地フットバルブまたは容器底の接地金属板などを用いる.
- 流速は同等サイズの導電性容器の流速制限を超えないようにする.
- 液体排出では,受側容器にも適切な対策が必要であることも当然である.
- 容器底近くまでディップパイプを挿入して,液面上部から充てんしないようにする.
- 高速混合など高帯電となる工程には用いない.
- 作業者人体の接地を靴と床の漏洩抵抗で確保する.
- IICまたはZone 0では,絶縁性容器は使用禁止とする.ただし,Zone 0の雰囲気においてサンプリングに絶縁性容器を使用する場合は,1 L以下の容器にする.
- Zone 1, 2では5 Lを超えない容器とする.流速は,Zone 2では同サイズの金属容器の流速制限を超えないようにする.Zone 1では1 m/s以下にする.