静電気イノベーションズ

静電気リスクアセスメント,ハザード同定,静電気対策のこと...

表面電荷密度の測定

ロール工程 で表面電荷密度によるハザード同定を示したので,表面電荷密度の測定法を紹介します.これは,「静電気リスクアセスメント2023」での改訂で追加する予定です.

帯電した絶縁性物体の表面電荷密度は,電界計または表面電位計を用いてその測定値から見積もることができる.帯電した絶縁性物体の近傍に電界計または表面電位計の筐体(およびガード電極)以外に,表面電荷と結合する接地がないとし,電界計による測定電界Eまたは絶縁性物体から距離dに置いた電位計*による測定電位をVとすると,図D.8aのように表面電荷密度\sigma

\sigma = \varepsilon_0 E = \varepsilon_0 \frac{V}{d}

によって見積もることができる.

図D.8bのようにフィルムやシートのように薄い絶縁性物体では,裏側の電荷の影響も受けるので,測定電界または電位は,表裏電荷の影響を受ける.したがって,表裏の正味の総電荷密度を求めることができる.

\sigma_1 + \sigma_2 = \varepsilon_0 E = \varepsilon_0 \frac{V}{d}

このとき,絶縁性物体のときと同様に,帯電した絶縁性物体の近傍に電界計または表面電位計の筐体(およびガード電極)以外に,表面電荷と結合する接地がないとしている.

この薄い絶縁性シートやフィルムの裏側に接地導体を接近させると,図D.8cのように裏側の電荷は接地導体に結合される(反極性の電荷が接地導体に誘導される)ので,裏側の電荷は測定電界や電位に影響されなくなり,表側のみの表面電荷密度\sigmaを測定できる.ここで,このフィルムの比誘電率\varepsilon,図D.8cのように,フィルムの厚さをd_f,フィルム内の電界をE_fとして,点線のような閉曲面でガウスの定理を適用して

\sigma = \varepsilon_0 E + \varepsilon \varepsilon_0 E_f

を得る.測定器筐体およびフィルム裏側の導体も接地であるので,フィルムの表側の電位V(電位計の場合は測定電位でもある)は

V = E d = E_f d_f

したがって,表面電荷密度\sigma

\sigma = \varepsilon_0 E \left(1 + \frac{\varepsilon d}{d_f} \right)= \varepsilon_0 V  \left(\frac{1}{d}+ \frac{\varepsilon}{d_f} \right)

となり,測定電界Eまたは電位Vから見積もることができる.この方法を用いて,ロール工程において接地ローラ上で電界または電位測定することによって,ウエブの表面電荷密度を片面ずつ見積もることもできる.リスクアセスメントに必要となる数µC/m2程度の電荷密度を測定するためには,このとき電位計の測定電位は数ボルト程度なので,測定器は0.1 V程度の感度が必要となる.

 

* 表面電位計の規定の測定距離dが短い(1 cm程度以下)場合は,接地された電位計筐体と帯電物体間の電界は平等とみなせる.