静電気イノベーションズ

静電気リスクアセスメント,ハザード同定,静電気対策のこと...

接地導体表面の絶縁性コートからのブラシ放電

ブラシ放電についてはA.3.8,ブラシ放電のハザード同定は6.3に詳述しているので,これらも参照されたい.
実際の経験から,次の条件のすべてが満たされるとき,接地導体表面の絶縁層(絶縁性コートやライナー(内袋)など)から着火性のブラシ放電は生起しにくいので,特別な対策は不要となる.

  1. 高帯電となる工程・作業(たとえば,絶縁性内袋を入れた導電性ドラムの連続充てん・排出など)でないこと.
    • 人による摩擦は,通常,高帯電となる作業と見なさない.
    • PTFEなどの抵抗率が極めて高いフッ素樹脂の絶縁層は帯電しやすいので,高帯電過程(高帯電となる工程・作業)があるとブラシ放電ハザードとなりやすい.
  2. IIAおよびIIBの可燃性雰囲気では絶縁層の厚さが2 mm以下である.IICの可燃性雰囲気では0.2 mm以下である.粉じん雰囲気では厚さの制限はない.ただし,厚さが薄くなり,条件(1)を満たさないような激しく帯電する過程があると沿面放電ハザードとなる可能性がある**.IEC TS 60079-32-1では,絶縁層の厚さをこのような範囲に制限してているが,実験[52]と一致しないので,次の[リスク見積・リスク低減策]にあるように放電電荷の統一式(A.19)を用いる評価方法(A.2.13.1参照)を薦める.

** 厚さが薄いほど絶縁層の見かけの静電容量が大きくなるので,同じ表面電位では表面電荷密度が高くなる.したがって,厚さが薄いと沿面放電開始に必要な表面電荷密度の250 µC/m2以上になりやすい(A.3.9.1参照).また,厚さが薄い代わりに比誘電率が高い材料ほど静電容量が大きくなり,表面電荷密度が高くなるので,絶縁層の比誘電率が高いほど沿面放電になりやすい.

[リスク見積・リスク低減策]

コート・ライナーの誘電率,厚さ,表面電位から求まる放電電荷の統一式(A.2.13.1参照)を用いて放電電荷を求め,ブラシ放電の着火性(表9.3参照)を評価し,可燃性雰囲気に対応して着火性ブラシ放電を起こさないようなコート・ライナーを選定するとよい.