導体で囲われた絶縁性容器: IBC
IBC容器がこれに相当して,一般に1 m3程度の絶縁性の小型容器である.静電気的には,10.8.7の内面絶縁性コートの導電性または電荷消散性タンク・容器と同じであるが,導電性のグリッド,メッシュ,コートなどのエンクロージャー(enclosure)のなかに納められている絶縁性容器やIBCがこれに当たる.接地された導電性コーティングまたは開口部面積が10,000 mm2を越えない導電性グリッドやメッシュにより,節煙性容器の外側表面が危険な帯電レベルなることを防止される.容器内面に存在する電荷の電束はこの接地導体に結合して,容器内部でのブラシ放電の可能性を低下させる.
[ハザード]
- 不均一な導電性コーティングは,絶縁導体となるので注意する.
- 容器は絶縁性であるので,金属性の漏斗,工具,蓋などのほか液体も接地から絶縁する.
- 容器内壁は帯電液体との接触で帯電する可能性がある.
- 容器内の液体の電荷緩和は絶縁性壁により期待できない.
- 容器内の高導電率液体は絶縁導体となる.
- 容器外側にある導体は接地されないと,静電誘導ハザードとなり,火花放電のハザードがある.
- 容器は絶縁物であるので,ブラシ放電のハザードがある.
- 低導電率液体では,液面でブラシ放電のハザードがある.
- 帯電液体が容器内にある場合は,上記の静電誘導,火花放電およびブラシ放電のハザードがさらに高くなる.
[確認事項], [リスク低減策]
このようなハザードから,タンクの内側又は外側に可燃性雰囲気が形成される可能性がある場合,絶縁性タンク・容器は使用すべきではない.また,5 Lを越える絶縁性容器の可燃性液体への使用は薦められない.したがって,IBCを使用する場合は,次のIBCの要求事項や対策が満たされているか確認する.
- すべての導体・電荷消散物体および作業者人体は接地する.
- エンクロージャーはシールドの役目を果たしているので,接地・ボンディングしなければならない.
- このタイプの大・中型容器の使用は避ける.
- 着火性の高い液体(たとえば,ジエチルエーテル,有機過酸化物(Organic peroxides),縮合環芳香族(epoxides),二硫化炭素)には使用しない.IICの雰囲気となる液体では使用しない.
- 容器外側がZone 0となる場合は使用を避ける.
- 導電性エンクロージャーがメッシュである場合は各グリッドの開放面積は10000 mm2以下にする.
- このグリッド面積が3000 mm2を超えるときはエンクロージャーと内側絶縁性容器の間隔を20 mm以下にする.3000 mm2以下ときはこの間隔を40 mm以下にする.
- 液体と接地間の抵抗を接地ディップパイプ,金属板またはフットバルブによって106 Ω以下にして電荷緩和を確保する.なお,金属板やフットバルブは絶縁導体とならないように液体量が少なくても恒久的に接地する.
- 低導電率液体は,接地した導電性ディップパイプを設置する.ここで,パイプの先端は容器底面から数センチ以内になるようにする.
- 導電性コーティングの場合は,コートが容器のすべての面で密接に接触していること.
- 液体を容器から排出する場合は,受け側容器でも適切に静電気対策をする.
- 高速充てんなど帯電促進要因は避ける.
- 絶縁性液体では接地ディップパイプを使用する.ブラシ放電を避けるため,この接地ディップパイプ先端をタンク底から数センチ以下まで下げる.
- 充てんは,400 L/minに制限し,2 m/sを越えないようにする.
- 高速連続充てん,スプラッシュローディングを避ける.
- 容器洗浄後などで容器が非常に高く帯電している場合は,すぐに使用しない.
- IBCには,安全使用に関する警告ラベル(IIAは黄,IIBは緑のラベル)が取り付ける必要がある.
- 可燃性雰囲気となる可能性があるときは,危険な帯電となりうるので,表面の拭き取りなどをしない.
- IBC容器は,ミキシングや撹拌容器としては設計されていないので,高帯電となるようなプロセス容器にしないこと.
- 液体をIBCから放出する前に,内容物を一様にする必要があるときは,次のようにして高帯電を避けるようにする:
導電層が埋め込まれたタンク・容器
[確認事項], [リスク低減策]
このタンク・容器も,構造から全面が絶縁性コートされたタンク・容器と同じであるので,ハザード・対策については10.8.7および10.8.8を参照する.導電層は,タンク壁に埋め込まれており,メッシュ状(金網状)であることもある.以下についても確認する.
- この導電層は接地されなければならない.
- 液体は,底部金属バルブや金属ディップパイプなどで接地と接触させて,電気伝導がとれるようにしておく.
- 導電層がメッシュ状ワイヤの場合,一つのメッシュの絶縁性表面の面積(ワイヤで囲まれた面積)は,表9.2のZone 0に対する面積制限を超えないようなメッシュサイズにする.
- 連続的に高速に充てんされるなどすると,内面が強く帯電して沿面放電のハザードとなる.絶縁性コートの沿面放電のハザードおよび防止はA.3.13.2を参照して,コート材料,厚さを選定する.また,コートの絶縁破壊電圧が4 kV以下となる材料と厚さを選定してもよい.
外側が絶縁性コートされた導電性または電荷消散性タンク・容器
これを抜けてしまいました
[ハザード]
- 内側の導電性または電荷消散性部が絶縁されると火花放電のハザードがある.
- 絶縁性コートが帯電するとブラシ放電または沿面放電のハザードとなる.
[確認事項], [リスク低減策]
- 絶縁性コートがタンク・容器を絶縁するので,タンクの導電部を接地・ボンディングする.
- 絶縁性コートによって絶縁される導体および電荷消散性物体も接地する.
- 静電スプレーなどの,強い電荷発生源がない限り,2 mm以下の厚さの絶縁性コートは着火性のブラシ放電は発生しにくいので,コートの厚さを確認する.
- 絶縁性コートのブラシ放電のハザードおよび着火性評価はA.3.13.1 ブラシ放電電荷を参照する.
- 帯電の強力な促進要因(たとえば,静電噴霧)がないかぎり,沿面放電は起こりにくい.
- 絶縁性コートの沿面放電のハザードおよび防止はA.3.13.2 沿面放電開始を参照する.
- 作業者の帯電防止のためタンク上部等の通路の床面および靴を通して人体を接地できるようにする.
全面が絶縁性コートされた導電性または電荷消散性タンク・容器
内側および外側が絶縁性コートされたタンク・容器であるので,10.8.7(内面絶縁性コート)および10.8.8(外面絶縁性コート)を参照する.
内面が絶縁性コートされた導電性または電荷消散性タンク・容器
[ハザード]
内面が絶縁性コートされた導電性または電荷消散性タンク・容器は次のようなハザードがある.
- 絶縁性コートと液体の接触により,液体およびコートが帯電ハザードとなる.
- 絶縁性コートは摩擦によっても帯電してハザードとなる.
- 帯電によりブラシ放電および沿面放電のハザードがある.
- 高導電性液体では,液体が絶縁導体となり火花放電のハザードがある.
- 一般に,50 𝜇m以下の厚さの絶縁性コート(たとえば,エポキシコート,塗装など)は高速連続充てんなど帯電の促進要因がないかぎり着火性の放電は発生しにくい.液体が容器底で接地と接触しているならば,この厚さを2 mmまで厚くしてよい.
[確認事項], [リスク低減策]
一般に次のような対策が取られるので確認する.
- タンク・容器は導電性または電荷消散性であるので接地・ボンディングが必要である.
- コートはタンク・容器に密着する.隙間や剥がれがないようにする.
- 液体がコートによって絶縁されるときの電荷緩和は絶縁性コートの電荷緩和となる.したがって,導電率にかかわらず液体は,底部金属バルブや金属ディップパイプなどで接地と電気伝導がとれるようにしておく.接地した金属板を入れておくだけでも有効である*[2].
- 洗浄などのタンク内作業は作業者が絶縁されるので,靴のほかにタンク底部は,たとえば,作業者が歩行する可能性のあるところは,導電性または電荷消散性のコートにして接地するなどの処置が必要である.
- 絶縁性コートのブラシ放電のハザードおよび着火性評価はA.3.13.1を参照する.
- 沿面放電のハザードとなるので,高速充てん,ジェット洗浄などを避けて,コーティングの帯電を抑制する.
- 沿面放電を防止するため,コートの絶縁破壊電圧が4 kV以下となる材料を選定する.
- 絶縁性コートの沿面放電のハザードおよび防止はA.3.13.2を参照する.
* 絶縁容器内に接地金属板を入れて液体と接触させるとよい.このときのこの金属板の面積は0.04V_t m2以上にする[35].ただし,V_tはタンクの容積 (m3)である.
電荷消散性タンク・容器
導電性タンク・容器と同様な接地が必要であるので,電荷消散性であることをタンク・容器に明示する.ハザードレベルおよび静電気対策は導電性タンク・容器と同じである.
部分的に絶縁性材料を用いる場合は,絶縁性材料部の面積は,表9.2の面積制限に従うこと.
小型導電性容器
小型導電性容器はドラム,バケツ,ペール缶,IBC (Intermediate Bulk Container)などで金属でできていて,絶縁性コーティングがされていない容器である.容器サイズのクラス分けの小型については表10.1を参照.
[ハザード]
小型導電性容器には次のようなハザードがある.
- 接地により適切な漏洩抵抗が確実にとられるようにしないとハザードとなる.可搬性があるため接地・ボンディングを忘れて事故になることが多い.また,いくつかの容器を順(直列)にボンディングによって接地しているのを散見する.途中でひとつでもボンディングを外す(が外れる)と,接地されない容器が出てきてしまうので,このような接地方法は避ける.
- フィルタの使用は帯電を促進させて帯電ハザードとなる.直近でのフィルタの使用が帯電の原因となった事故事例がある.使用する場合は緩和長を確保する.
- スプラッシュローディングは帯電ハザードとなる.
- 接地導体(作業者も含む)が近づくことによる低導電率液体の液面でのブラシ放電のハザードがある.
- 容器自体またはドラムポンプ,漏斗などの絶縁(非接地)による火花放電のハザードがある.
- 絶縁された作業者も静電誘導により,火花放電の原因となる.
[確認事項], [リスク低減策]
次のような静電気対策があるので,確実になされているか確認する.
- 充てん・排出中はすべての導体(電荷消散性の物体および作業者も含む)を接地・ボンディングする: 絶縁導体(たとえば,金属製の漏斗やノズル)からの火花放電の事故が多い.
- 絶縁性の漏斗は使用しない.プラスチック製のものは,電荷消散性の材料にして,接地・ボンディングする.
- 不溶成分のない液体の小型タンク・容器への充てんでは,中型タンク・容器の速度制限を超えてはならない.実際にはこれらの制限は小型タンク用の充てん装置の限界を遙かに上回ることから,小型タンク充てん装置はこの速度制限を満たしている.明示的な流速制限が必要であれば,2 m/sの最大流速を越えないようにすることを薦める.
- 導電率が低く,着火性が高い液体,例えば,二硫化炭素,ジエチルエーテル,有機過酸化物,エチレンオキサイドなど最小着火エネルギーが0.2 mJ未満の液体は流速を1 m/sを越えないようにする.
- 不溶物質が混在する中・低導電率液体では1 m/sを超えない流速とする.
- ディップパイプなどを用いて液面上部から充てんしないようにする.
- 作業者人体の接地を靴と床の漏洩抵抗で確保する.
- フィルターの設置位置は十分な緩和長を確保する.