静電気イノベーションズ

静電気リスクアセスメント,ハザード同定,静電気対策のこと...

接地が必要な導電性・電荷消散性物体

すべての導体(導電性・電荷消散性物体)に接地が必要なわけではない.火花放電のエネルギーは導体の静電容量に依存するので,可燃性雰囲気の最小着火エネルギーによって,小さな静電容量の導体の接地は必ずしも必要でなくなる.

帯電を著しく促進する要因,たとえば,静電噴霧・塗装のように大きく帯電する要因がないかぎり,火花放電の防止のための導体の接地は可燃性雰囲気とその発生頻度および導体の静電容量によってクラス分けできる.可燃性雰囲気の着火性(Explosion group)と危険場所(Zone)で絶縁導体の許容できる最大静電容量[18]は表9.1にまとめたとおりであり,最大許容静電容量以下の導体は接地しなくてもよい.説明すると以下に示すようになる.

  • Group IIA
    1. Zone 0: 3 pF
      IIAの可燃性雰囲気でZone 0となる危険場所では,静電容量が3 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.したがって,静電容量が3 pF以下の導体は接地不要である.
    2. Zone 1: 6 pF
      IIAの可燃性雰囲気でZone 1となる危険場所では,静電容量が6 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.したがって,静電容量が6 pF以下の導体は接地不要である.
    3. Zone 2
      IIAの可燃性雰囲気でZone 2となる危険場所では,静電容量が10 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.ただし,清掃・メンテナンスを含めて通常作業・工程で帯電によって導体の誘導電位が危険なレベルにならないかぎり,絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低いので,この場合は絶縁導体を許容できる.
  • Group IIB
    1. Zone 0/1: 3pF
      IIBの可燃性雰囲気でZone 0またはZone 1となる危険場所では,静電容量が3 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.したがって,静電容量が3 pF以下の導体は接地不要である.
    2. Zone 2
      IIBの可燃性雰囲気でZone 2となる危険場所では,静電容量が10 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.ただし,清掃・メンテナンスを含めて通常作業・工程で帯電によって導体の誘導電位が危険なレベルにならないかぎり,絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低いので,この場合は絶縁導体を許容できる.
  • Group IIC
    1. Zone 0: 絶縁導体を許容できない
      IICの可燃性雰囲気でZone 0となる危険場所では,すべての導体から着火性火花放電のハザードがあり,絶縁導体を許容できない.
    2. Zone 1: 3 pF
      IICの可燃性雰囲気でZone 1となる危険場所では,静電容量が3 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.したがって,静電容量が3 pF以下の導体は接地不要である.
    3. Zone 2
      IICの可燃性雰囲気でZone 2となる危険場所では,静電容量が10 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.ただし,清掃・メンテナンスを含めて通常作業・工程で帯電によって導体電位が危険なレベルにならないかぎり,絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低いので,この場合は絶縁導体を許容できる.
  • Group III
    1. Zone 20/21: 6 pF (MIE ≤ 10 mJ), 10 pF (MIE > 10 mJ)
      • MIE ≤ 10 mJ: 粉じん可燃性雰囲気でZone 20または21の危険場所では,最小着火エネルギーが10 mJ以下の粉体を取り扱う工程・作業において,静電容量が6 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.したがって,静電容量が6 pF以下の導体は接地不要である.
      • MIE > 10 mJ: 粉じん可燃性雰囲気でZone 20または21の危険場所では,最小着火エネルギーが10 mJ以上の粉体を取り扱う工程・作業においては,静電容量が10 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.したがって,静電容量が10 pF以下の導体は接地不要である.
    2. Zone 22: 粉じん可燃性雰囲気でZone 20または21の危険場所では,静電容量が10 pF以下の絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低い.ただし,清掃・メンテナンスを含めて通常作業・工程で帯電によって導体の誘導電位が危険なレベルにならないかぎり,絶縁導体から発生する火花放電による着火リスクは低いので,この場合は絶縁導体を許容できる.
  • 適用上の注意
    1. 静電容量は周辺の接地および導体との位置関係に依存するので,できれば固定された導体に適用されたい.
    2. 静電容量は接地導体に近づくと大きくなるので,導体の位置によっては上記の静電容量の条件を満たさなくなることがある.したがって,可搬の導体や作業者が取り扱う導体は,上記に関係なく接地・ボンディングが必要である.作業者が取り扱う導体は人体を通して接地させる.
  • 人体は導体であり,着火性火花放電を発生するに十分大きな静電容量を有する.したがって,危険場所では,人体を靴と床で接地するようにする(13.3参照).

静電容量はIEC 60079-32-2[10]にしたがって測定すること(D.11参照).

物体の表面抵抗率(表面抵抗)が109 Ω (108 Ω)よりも高く,1012 Ω (1011 Ω)よりも低い場合は,たとえ接地されていなくても,火花放電もブラシ放電も起こらならないとされている[14].したがって,このような電荷消散性物体も接地しなくてもよい.

この表9.1は改訂した 最大許容容量の変更内容は,当初のガイド(PD CLC/TR 50404 [5]に同じ)にほぼ戻したことになり,CLC/TR 50404 [5]をもとに作成されたIEC TS 60079-32-1 [18]と同じである.つまり,国際規格のIEC TS 60079-32-1 [18]と同じ最大許容容量である.