ロール工程
ロール工程は,ロールに巻き取られた薄いシート状材料をローラを用いて搬送しながら、材料に種々の処理をする工程であり,通常,最終的にロールに巻き取られる.この工程はロールtoロールとかウエブとも呼ばれる.ローラで搬送される材料自体をウエブ*と呼ぶこともある.材料には,樹脂フィルム,紙,金属泊,ガラス繊維,不織布,生地など絶縁性から導電性まで種々の導電率を有する材料がある.ラミネート加工など絶縁性と導電性材料が同時に搬送されることもある.材料の長さは数十から数百メートルに及ぶ場合もある.通常,ロールは金属製で接地される.ロール工程が用いられる処理には,印刷,ラミネート加工,コーティング,塗工などさまざまである.
* ウエブ(web)は蜘蛛の巣という意味があり,材料がローラで蜘蛛の巣のようにはりめぐされている様子からこう呼ぶこともある.
[ハザード]
- ローラを搬送される材料は,多くのローラで繰り返し接触・分離するので,帯電ハザードとなる可能性がある.
- 帯電は,材料の搬送速度(最大で1000 m/min程度まででさまざま),ローラでの接触面積,接触圧力,すべり・摩擦に依存する.
- 絶縁性材料と導電性材料を取り扱われる場合,絶縁導体が形成される可能性があり、この場合,火花放電ハザードとなる可能性がある.
- ローラなどの可動部の接地不良はローラおよび導電性ウエブ材料が絶縁導体となり,火花放電ハザードとなる.
- 絶縁性材料と導電性材料が混在する材料では,導電層が絶縁導体となり,火花放電ハザードとなる.
- ローラ搬送される絶縁性材料が帯電すると,ブラシ放電のハザードとなる.
- ローラ搬送される絶縁性材料の表裏が異極性に帯電すると沿面放電ハザードとなる可能性がある.
- 帯電した絶縁性材料が巻き取られる場合,かなりの電荷が蓄積されるので,ブラシまたは沿面放電のハザードがあり,さらに,電撃の可能性もある.
- 処理に可燃性液体などが使用されると,可燃性雰囲気形成ハザードとなる可能性があり,静電気放電による着火ハザードとなる可能性がある.
[リスク低減策]
紙,プラスチックフィルム,布等の巻取り・巻戻し,塗工,印刷等のロール工程においては,次によって帯電を抑制するとともに,可燃性雰囲気となるおそれがある場合は,通気・換気などによって可燃性雰囲気の形成を防止する対策を実施する.
- ローラは金属または導電性としてシャフトを介して接地する.ベアリングを介した接地は,絶縁性油膜が存在するため信頼性が低いので注意する.
- 可能であれば,静電気の発生しにくい材料を選定する.
- 搬送走行速度を低くし,急な速度変化も避ける.
- ロール圧力および張力を低く,均一に保つ.
- 加湿(効果は材料に依存する)
- 除電器の使用などにより帯電防止対策を実施する.除電器の位置はローラから100-175 mm離れた場所で,ロールから6-25 mm離して設置して,ローラで接触・分離する帯電面を除電するようにすると効果的である(図9.1).特に,帯電が起こりやすい摩擦や圧力が高いローラの後で除電するとよい.
- 危険場所が工程内にある場合,危険場所にウエブが入る前に除電するようにする.もし,危険場所内で除電器を使用する場合は,除電器が着火源とならないよう防爆型のものを使用し,除電効果,管理など十分なリスクアセスメントが必要である(9.6.6 除電を参照).
- シート表裏の帯電している面を除電するように除電器を配置しないと,表裏で極性が異なる両極性帯電を形成し,沿面放電のハザードとなる可能性がある.したがって,両面が帯電している場合は,両面を同時に除電するようにする.除電器の適切な配置などを調査する場合は,エキスパートのアドバイスを薦める.
- 最終的に絶縁性材料が巻き取られるとき,巻き取られる前でフィルムを除電するようにする.
- 可燃性ガス・蒸気が存在する場合,接地された接点(ローラなど)から少なくとも150 mm離れた位置で材料の表面電界が200 kV/m以下**であるか,表面電荷密度が2 µC/m2未満***である必要がある.
- 可燃性ガス・蒸気が存在する場合,危険場所に入る前にフィルムを除電するようにする.
** 200 kV/mは,表面電位を5 kVを越えないようにするための指針であり,25 mmの距離では測定電界は200 kV/mになる [4].
*** 2 µC/m2は,6.3.3.7に示したExplosion groupで分けた表面電荷密度でも十分である.